歴史研究における理論と実証


歴史研究において理論と実証の二つが重要なことは言うまでもありません。しかし、この二つを備えた研究をすることは容易ではありません。特にこれまでの植民地研究は理論や概念だけで語られ、資料による証明が疎かにされてきたといえます。このように語られてきたから当然だ、というように、その語りの出所が曖昧なまま特定の理論、概念が形成されてきました。
 こうした現状を反省すること、つまり理論と実証の歯車を合わせ、事実に基づいた歴史を構成していくことを根幹に置いて、われわれは研究を進めてきました。

    理論と実証の歯車を合わせる
これに関しては、植民地シンポジウムにおいて試みてきました。今回の植民地シンポジウムでは第1部が「植民地研究の展望―日本統治期朝鮮半島を中心として」、第2部が「日本統治期朝鮮半島関連アーカイブ研究の展望」という題目で行われました。これは第1部において理論及び実証研究の発表を行うことでその問題点を議論し、第2部においてそうした植民地研究を今後アーカイブズ学がどのように貢献できるかを議論するという構成になっています。第1部と第2部の議論が直接的に連結されているわけではありませんが、単に理論的な議論を行うのではなく、そこにアーカイブズ学の議論を加えることで、より重層的な植民地研究がなされていくことを期しました。「Ⅱ 植民地シンポジウム」において詳細を報告させていただきたい。

②事実に基づいた歴史を構成
これに関しては木浦における民衆史研究において行ってきました。植民地期を論じる上で、出所の確かな資料を入手することは急務です。そこでわれわれは植民地期に朝鮮に住まわれた日本人の調査に着手してきました。そうした人々から貴重な意見を聞くことは重要ですが、まずその下準備として、どのような方が住まわれ、どのような仕事をなさっていたか、またそうした情報の出典のデータベースを作成しました。「Ⅲ 木浦資料集」において詳細を報告させていただきたい。

 植民地朝鮮に関する研究は理論においてもそれを実証する面においても未熟な段階にあるといえます。単に二項対立的な理論を脱却して新たな理論を構築していくとともに、それを実証しうる資料を学問的に整理してきました。また、実際にその当時生活されていた方から証言をいただくことは時間との戦いであり、そうしたオーラルヒストリー研究も進めてきました。こうした理論形成とそれを裏付ける資料の整理といった植民地研究の展望に関して研究してきた成果を報告させていただきます。

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