在朝日本人たちの「生きた証のアーカイブ」
1945年8月15日。その日をもって、外国人となった日本人約75万名が朝鮮半島南部の釜山に集結した。『故郷へ ~帝国の解体・米軍が見た日本人と朝鮮人の引揚げ~』(浅野 豊美 ・明田川 融編、現代史料出版・ 東出版刊、2005年9月)には、アメリカ軍のカメラマンによって撮影された写真がある。釜山港の桟橋付近で、大勢の日本人たちが引き揚げ船を待つ光景である。日本人たちが着の身着のままで大挙して釜山港を目指してきて、不安なまま乗船を待ち続ける様子や、あるいは乗船できる安堵の姿を映し出している。かって、その釜山港に降り立った日本人は、大望の一歩を踏んだはずである。
「在朝日本人」(1890年頃から1945年まで朝鮮半島に居住した日本人)へのオーラルヒストリー調査を開始して3年の間、多くの方々のご協力を得て、多数の貴重な資料を蓄積することが出来た。まずは何よりも肉声を納めたビデオテープ、現在所属する同窓会の刊行物、所持しておいでの写真、あるいは地図など。重ねて御礼を申し上げたい。
我々が目指したのは、在朝日本人たちの「生きた証のアーカイブ」を構築することにあった。在朝日本人たちにとって、思い出の品々であったとしても、子供たちや孫たちには、たんなる「紙くず」だからである。彼ら在朝日本人たちは、自分たちが朝鮮半島に生活していたことを誇りと考えて、堂々と語る機会を持ち得ないまま、静かに思い出の品々を保管してきた。わずかな機会が、ひっそりと開催された同窓会、同郷会であった。
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